Sugar & Salt Corner
No.35 2008年11月6日
佐藤 敏雄

32年間も働き続けたマリサット2号機 引退

Marisat インテルサットは11月3日、マリサット2号機の運用を10月29日に停止したと発表しました。同機はヒューズ・エアクラフト社により製造され、1976年にコムサット・ジェネラル社が打ち上げたものです。当初の設計寿命は僅か5年でしたが、何と32年の長きにわたり通信サービスを提供し続けてきたのです。
インテルサットによれば、同機を軌道上に維持するための地上システムが寿命に近づいてきたため、他の静止衛星との干渉を避けるべく、最後の燃料を使って125マイル高い、廃棄軌道 (disposal orbit) に持ち上げる操作を行ったとのことです。
同機の最後の仕事は、南極アムンゼン・スコット基地の科学者に対し、インターネット・サービスを提供することでありました。

(以上、電波産業会にお勤めの遠藤静夫会員から)    

このニュースを聞いて、ちょっと昔のことを思い出しました。数年前、多摩川電子 (株) に関係していた時、S&Sの前身とも言うべきものを書いていたのですが、当時この会社は携帯電話の IM (インターモジュレーション) 問題で悩んでいたのです。IMとは複数の電波を増幅する際、少しでも回路に接触不良の箇所があると雑音が発生すると言う問題です。そこで私はマリサットの経験について説明したのですが、何とその衛星が、今回話題のマリサット第2号機だったのです。少しそのさわりを紹介しましょう。

マリサット2号衛星
マリサット2号衛星
「インマルサットでは、当初、米軍のマリサット (Marisat) 衛星を借用して海事衛星通信サービスを開始したのですが、その第2号機で原因不明の雑音が発生して担当者を悩ませていました。結論から言うと、これは衛星の送信用フィルターの中にあったハンダ屑によるIMによるものでした。製造業者のあらゆる製造履歴を調べても、IMの原因となる接触不良や異金属の接合部分は無く、恐らくは製造工程で残留したハンダ屑によるもと想定されましたが、問題は場所が宇宙空間。さてどうするか。
頭をひねった衛星技術者たちが考え出したのは、衛星を高速回転させることでした。マリサット衛星は、いわゆるスピン安定型で、宇宙空間での姿勢を保つため、コマのように3秒間で1回程度の速度で自転しています。このメカニズムを使って、地上からのコマンドでこの衛星を壊れない程度の高速で回転させたのだそうです。狙いは見事的中!雑音はきれいに無くなりました。何故かって?それは、衛星を振り回すことによって、ごみを四角なフィルターの隅っこに押し付けることに成功したのです。ごみ、この場合はハンダ屑だったのですが、これを四隅に押し付けてしまえば、もうこれがゴロゴロ転がって雑音を出すことはありません。」

そんな衛星が何とその後30年余も働き続け、今、引退と言う、数奇なストーリーです。何でもやってみようという、柔軟な頭の働きが大切だということを気づかせてくれるお話でありました。

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