ネット・インタビュー (6)

--- 天体観測の師と仰ぐ 来田幸博さん ---

 ご紹介するのは、数年来、天体観測の諸々を教えて頂いている 「来田幸博」 さんです。そうです、天体写真のコーナーに素晴らしい写真を投稿して頂いています。2000年の年賀状に 「趣味の天体観望を続けています」 と書いたのが、来田さんとの天体観測のお付き合いのきっかけとなりました。
  来田さんのご子息は、浜田では知る人ぞ知る、その昔、1978年、1979年の甲子園で活躍した浜田高校の来田三塁手で有名です。現在、出雲高校の教員で野球部の監督をなさっているとのことです。
磯村 栄一

1. 何時頃から天体観測 そのきっかけはどの辺りにあったのでしょう?

 兄が自宅の屋上に天体観測小屋を作るほどの大天文フアンで、この兄の影響を受けて若い頃から天文には興味を持っていました。定年後、浜田に定住するようになりましたが、大都会ほど光害が酷くないこともあって兄の助言を得て天体観測をやり始めました。初期の天体観測のノウハウはすべてこの兄に教えてもらうことができ、大変助かりしました。
  磯村さんは筑波山麓まで出かけられたようですが、私も兄と二人で東亜天文学会の会長をしておられた天文学者で京大教授の
山本一清先生 (故人、古い天文フアンならご存知の方) をご自宅の天文台にお尋ねしていろいろ教えていただいたとことがあります。
ヘールボップ彗星

2. 初期の天体観測、そのシステム?

 はじめは小口径の望遠鏡による観望のほか、三脚に一眼レフを載せて撮る星野写真、星景写真、流星写真をやっていましたが、本格的に天体撮影をやりだしたのは1997年あの大彗星ヘール・ボップがやってきた頃からで、ポータブル赤道儀など撮影機材を購入しました。この彗星のお陰で天文フアンになった人が多いそうですね。
  ヘール・ボップのような大彗星は残り少ない私の人生ではもう二度と見られないでしょう。家内を誘って近くの海岸や山に撮影に出掛けた当時を思い出します。ヘール・ボップ以降徐々に機材を買い集めて天体撮影にのめりこむようになりました。今思うとずいぶん無駄な投資をしたものもありますが、これも授業料だと思っています。
  最近、マックホルツ彗星の撮影を磯村さんと一緒に長い間楽しみましたが、今は北斗七星の近くにいて10等星くらいの明るさで、もちろん肉眼では見えません。観賞用の天体撮影の対象としても暗くて 「さよなら マックホルツ」 といったところです。発見者の Machholz さんは私たちと同年代の方で、今までにも幾つかの彗星を見つけていますが、最近はNASAがNEATなど彗星の自動探査機を打ち上げているので、アマチュアの出番が狭められてしまいました。肉眼級の彗星発見を期待しています。

愛機

3. システムの変遷、望遠鏡、カメラなど

 日常の写真撮影も好きな方だったので、カメラなどは一通り揃っていました。これらは銀塩写真用のもので、一昔前の一眼レフ (SLR) が3台 (ペンタクッス、オリンパス、ビクセン) とレンジファインダー式のカメラが1台 (キャノン50mm)です。
  天体撮影では何千万光年ものかなたからやって来る銀河の光は非常に暗く、惑星や月などの明るい天体と違って銀河の撮影には長時間の露出が必要です。長時間露出には、シャッターを開けたままにしておける昔のSLRカメラはもってこいです。最近は、写真用のカメラは流星を撮影するとき以外はほとんど使わなくなりました。
  銀河などの暗い天体の撮影は長時間の露出をしますが、冷却CCDカメラの場合、いろいろな理由から1フレームで長時間露出するのではなく、10分程度のサブフレームを何枚も撮り、後でこれを合成処理することにより S/N (信号対雑音)比の改善を図って、1フレームで長時間露出をしたのとほぼ同じ結果を得ています。
  このほか、天体撮像専用で感度の優れた冷却CCDカメラを2台持っています。それから、もうひとつWebcamというテレビ電話で使う僅か1万円そこそこのカメラがあります。このカメラを望遠鏡に装着して惑星や月、太陽を撮像すると驚くほどのキレイな画像が得られるので、火星や土星の撮影を楽しむ天文フアンの間では人気抜群のカメラです。
  写真レンズは、28mm、50mm、200mm、80-200mmズームを目的に応じて使い分けています。これらのカメラを望遠鏡に装着して撮影するか、レンズを望遠鏡の代わりに使いこれらのレンズをカメラに結合して撮影します。今使っている望遠鏡は屈折望遠鏡 (口径12cm) とカセグレンタイプの反射望遠鏡 (口径20cm) の2本で、これらのカメラを、磯村さんも使っておられる自動導入式の赤道儀に搭載して使っています。私の場合、望遠鏡の制御は室内からパソコンでやりますので、パソコンは制御用のものと撮像・画像処理用のものがそれぞれ1台あります。今は昔と違って望遠鏡といってもエレクトロニクス機材の一部といった感じですね。

4. NASAなど天文関連サイトの活用  色々なサイトをご覧になっているようですが?

 ある日Search engineを使って流星に関する情報をさがしていたら、NASAのウエブサイトの一つで流星の写真を募集しているのが目に留まりました。それからしばらくたって 「ふたご座流星群」 が出現したので撮影していたところ、運良くフィルムのひとコマに北斗七星を貫いて流れる明るい流星が写ってくれ、文字通り宝くじに当たったような写真が出来上がりました。早速NASAに送ったところ、Dr.Phillips という人から 「貴方の写真をNASAのページに掲載してやろう」 というメールがきて、私の写真を紹介してくれました。
      http://science.msfc.nasa.gov/newhome/headlines/ast27apr99_1.htm
  Dr.Phillipsからは 「いい流星の写真が取れたらまた送ってくれるように」 という連絡がありましたので、その後2、3の画像を送ってウエブサイトで掲載してもらいました。
  それが縁で、外国の人からメールが来るようになりました。変わったところではイスラエルのメディアから 「貴方の流星の写真を転載させて欲しい」 とか、どういう訳かアメリカのピアノの先生をしているという女性から 「流星の撮影方法を教えて欲しい」 といったものもありました。
  NASAのサイトは数え切れないほどたくさんありますが、私がよく覗くのはHST (ハッブル宇宙望遠鏡) 関連のサイトです。最近、HSTが撮った画像をダウンロードしてきて私たちのパソコンで処理してプロの天文学者並みの高解像度の画像に仕上げられるソフトが公開されましたので、自分でNASAと同じ画像を作成することができるようになりました。
        http://www.spacetelescope.org/projects/fits_liberator/index.html
  そのほか、毎日見るサイトとしては 「Astronomy of the day」 というページがあります。これは毎日ひとつの画像に簡単な解説記事をつけた絵本を見るような楽しいサイトです。
        http://www.star.ucl.ac.uk/~apod/apod/astropix.html
  それから Yahoo の Discussion Group も良く利用しています
        http://dir.groups.yahoo.com/dir/Science/Astronomy/Amateur?show_groups=1

カラフルな流星 私は田舎に住んでいるので主な情報源はインターネットです。本屋や図書館に行っても手に入らない情報が見つかります。家内が突発性難聴という原因不明の病気に罹ったときも、家庭の医学書ではほんの数行しか説明がなかったのですが、インターネットではその何十倍もの報が見つかりました。

5. 流星撮影を捉まえるコツは? くじ運も要る??

 流星といえばやはり2003年の 「しし座流星群」 を思い出しますね。当時マスコミが大きく取り上げたので、日ごろ天文現象に興味を持たない人までがマイカーで光害の少ない場所に遠出をしました。天気予報よりも当たらないといわれる流星予測ですが、このときはアッシャー博士の予測が見事に的中し、当夜の流星雨は見えている星が全部落ちてくるのではないかと思うほどすばらしいものでした。ぐっすり寝ている家内をたたき起こして二人で流星ショーを楽しませてもらいました。ヘール・ボップ彗星と同様もう二度とこのような流星雨は見られないでしょう。
  流星写真を撮るのは簡単ですが、流星を旨く捉えることができるかどうかは宝くじを当てるようなものです。この前の 「しし座流星群」 のような場合は特別ですが、普通の流星群は全天で1時間にせいぜい数個か多くて十数個くらいですから。ただ、撮影にはいくつかのコツみたいなものはあります。まずは、できるだけ暗い撮影場所を選んでしっかりと三脚を固定します。

ふたご座流星  次に、広角レンズと、複数台の、シャッターを開放できるカメラを使い、必ずレリーズでシャッターを開閉することです。フィルムは惜しみなく使って、流星が入らなくてもバシャバシャと2、3分毎にシャターをきりますが、カメラの写野に流星が入ったと思ったらすぐシャッターを閉じることです。あまり長い時間露出するとフィルムがかぶってしまい、せっかく写っていた流星が消えてしまいますから。 淡い流星は目には見えても ASA400 以下のフィルムでは写っていないことが多いので ASA800 以上のフィルムを使うとよいでしょう。撮影時間帯は真夜中から朝方にかけてが良いようです。

6. ベスト・ショット、お気に入りショットは?

 ベスト・ショットではありませんが、思い出に残るショットは幾つかあります。「ヘール・ボップ」 がやはり一番懐かしいですね。ベランダで撮ったのは隣家の屋根瓦と比べていただくとその大きさが分かると思います。「しし座のカラフルな流星」 も印象の残っているものの一つです。NASA のサイトに掲載された北斗七星を貫いて流れる 「ふたご座の流星」 は宝くじに当たったような写真です。これらの写真はSLRカメラと三脚さえあればどなたでも撮れる星景写真です。そのほか、以前 k-unet で紹介していただいた火星の画像は「天文ガイド」誌の写真コンクールに入選しました。
  最近は深宇宙の天体 (k-unet に掲載していただいている銀河など) の撮影に凝っています。どんな趣味でも没頭しているときは楽しいものですが、天体撮影は人様が寝ているときにやるのですから、考えてみれば不健康な趣味ですね。私も73歳になりました。後何年続けられるでしょうか。「少年老いやすく学成りがたし (Art is long, but life is short.)」 を実感します。

後記

 一度、浜田のお宅にお邪魔したことがあります。常々、赤道儀の初期設定、特に 「極軸望遠鏡」 を通して 「北極星」 を正確に捕捉することが大事と仰っていましたが、その手順をじっくりと教えて頂きました。自宅で天体観測、羨ましき限りです。
  天体撮影には 「光害」 となる街灯などの影響が少ないことが第一ですが、来田さんもご苦労なさっていたようで、至近距離にあるホテル屋上の看板照明を早めに消灯するよう掛け合ったそうです。磯村の場合、光害を避け、車で大遠征するのが普通です。
  新年早々のある夜のことでしたが、マックホルツ彗星を来田さんと同時撮影しました。撮影環境、撮影機材それに撮影技術が違うので比較になりませんですが、町田の空では肝心の 「彗星の尾」 がはっきりと写りません。通信の世界で言う 「S/N」 が悪い状態でした。そんな状態でも、来田さんによれば、小生の写真でも 「11等級」 クラスの暗い星まで写っていたそうです。写し方、画像処理次第で町田の空も捨てたものではないことが判りました。
  インターネットが始まった頃ですが、アマチュア無線の電波による 「パケット通信」 版の掲示板に、当時話題の 「ヘール・ボップ彗星」 の写真が掲載されていました。彗星の写真をダウン・ロードするのに苦労していました。望遠鏡システムの投稿もあり、その投稿主を筑波山北麓まで訪ねました。その夜、20cm口径の天体望遠鏡でオリオン大星雲を見て感激しました。そんなことがインターネットや天体観測を始める発端となったと思います。
2005/6/16