彩游

横井 寛
鯉

鯉は人類文化史上最も古くから食用として飼育されてきた魚であるが、わが国では平安時代から観賞用としても親しまれるようになった。その野生の鯉に色付けしたのは越後の人たちで、それは185年も前のことであった。最近はさまざまな色彩の錦鯉も出回るようになり、世界各国の人たちから“生きた真珠”として親しまれている。

鯉は雄健で俎板に載せ刃物を入れても悠揚迫らざるところから武士魚ともいわれ、また鯉の滝登りの譬えから出世魚とも称され、さらにその寿命が鶴亀と並んで長寿を保つので祝魚ともされている。

鯉にはボスもいなければ苛めもない。人にも馴れやすく誠に平和な魚である。私は小さな庭の片隅に作った池に十数匹の錦鯉を泳がせているが、じっとそれらの鯉を眺めていると不快なことは全て忘れてひと時の楽しい桃源境に誘い込まれる。

錦鯉も鯉幟も日本人によって作られたものであるが、誠にユニークな発想であったと思われる。5の絵(120号)は5年ほど前に日本画の全国展(新興展)に出品したものであるが、現在は防衛大学校の所蔵となり、同校の幹部食堂・玄関に飾られている。

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