四 季 雑 感
(5) 漸く合点できた話し

樫村 慶一

  久しぶりにこの欄を書いてみたくなった。これを書いている最中に鳩山幹事長が民主党新代表に選ばれたとテレビが伝えた。今の日本には政権交代を望む人は沢山いるが、南米でもパラグアイで今年4月に61年ぶりに右派政権から左派に変わった。こんな話しをと思ったが、携帯電話の話しで最近やっと合点がいったことがあり、やっぱりそれをテーマにしようと思う。
  それは、今年の始めから総務省が引き下げに向けて制度改正に乗り出したと報道されている、携帯電話の接続料のことである。日本の携帯電話の通話料は世界的にみて高く、その一番の原因は接続料が高いからであるとされている。ところがこの接続料はシェアーが25%以上ある事業者 (ドコモ、au)は公開が義務付けられているが、20%以下のソフトバンク・モバイル(以下SBMと言う)などにはその義務がない。それゆえ関係者以外にとっては
 「ドコモ及びauと、SBM間には接続料に格差がある」 ことはブラックボックスだった。電気通信事業法により 「接続料は適正な原価に適正な利潤を加えた額」 と規定されているだけで、算定方法や根拠を公表する必要はない。ところが、3月3日から開かれている総務大臣の諮問機関である 「情報通信審議会・電気通信事業政策部会・接続委員会」で、3月6日に開かれた「合同公開ヒヤリング」に先立ち、審議会のあるメンバーからの強い要望により、SBMはこの接続料を公開せざるを得なくなった。この結果、SBMの接続料がドコモより33%も高いことが明らかになった。区域外の3分間の接続料を2008年度の額で見てみると、ドコモが32円40銭、auが39円24銭、これに対しSBMは43円9銭である。ドコモより10円69銭、auより3円85銭高い。「週間ダイヤモンド(2009.4.25号)」によると、この差額を巡りドコモとSBMのバトルが始まったと報じられている。
  接続料とは、それぞれのキャリアーが発信通話量に応じて着信側のキャリアーに着信側が定めた金額(回線使用料)を支払うことである。日本の全携帯電話の加入者数を約1億として、大雑把なシェアーはドコモが5000万、auが3000万、SBMが2000万とする。それぞれのキャリーアは自分のネットワークの加入者相互間の通話料は無料にして、他事業者のネットワークとの通話を有料にしている。自分のネットワークから他事業者への発信については加入者から通話料を徴収し、着信側キャリアーに対して接続料を払う。その逆は発信側から自社で決めた接続料を受け取る。SBMは、ドコモやauと同額の通信料を加入者から徴収し、ドコモやauから受け取る接続料よりも安い金額を相手側に支払う。するとどうなるか。
  ドコモ ⇒ SBM、SBM ⇒ ドコモで、それぞれ3分の通話があったとして単純に計算してみよう。
  ドコモもSBMも加入者から徴収する通信料は30秒21円で同じなので3分で126円である。ここからドコモはSBMに接続料として43円を払う。逆にSBMはドコモに32円払う。ドコモの接続料は公開を義務付けられているがSBMにはその義務はない。両社とも通信料は同じなので、
接続料だけの比較をすると、ドコモはSBMに43円払って32円を受け取るわけで、加入者から徴収した通信料126円は差し引きマイナス11円の115円になる。一方SBMはドコモに32円払って43円受け取るので通信料は11円プラスの137円になり、両社の差は22円になる。これを巡ってドコモとSBMの対立が起こったのである。
  もうお分かりだと思うが、もし接続料がどの事業者も同額で、発着通話量が同じだったら加入者から頂く基本料と通話料だけになってしまい、基本料月額980円なんていう低額ではやっていけなくなるだろう。インターネットでいくら検索しても各事業者毎の通話量データが出て来ないので、SBMとドコモ、au間の発着通話量や、どちらが発信通話が多いのかなどが分からない。しかし、SBMにとっては着信通話が多い方が旨みが増すであろう。SBMがホワイトプラントと称して一生懸命加入者を増やしているが、これは言うならば、他事業者の加入者との通話を増やして、受取り接続料を増やし、ひいては自社の加入者になってもらおうと言うのが目的ではないかと推察する。 
  こうした中で、今年から上記の接続料の制度を抜本的に見直すと言う動きが出てきた。しかし、これが下がればSBMにとっては死活問題になりかねない。聞くところによるとSBMの孫社長はあせっていると言われているが、ウルトラCのような案があるようにも聞かれる。それは、現在のMNO(移動体通信事業者)の立場に加え MVNO(仮想移動体通信事業者)の立場も認めてもらおうと言う動きである。MVNOになれば、自分でアンテナを立てなくても、ドコモやauの設備を借りて電波が届くエリアを拡大することがきるからである。先の接続料収益方式が崩れても、年間数千億円の設備投資が抑えられれば元は取れると言う勘定のようである。でもこれでは、徴収するのは安い通話料のままで、虎の子の接続料が入らなければ、支出は減らせても収入も上がらないだろう。なんらかの現金収益を上げる方策が必要になってくると思う。

  加入者同志の通話を無料にして、どうやって収益が上がるのか以前から不審に思っていたことが漸く合点したので、ついぞ書きたくなってしまった。すでにご承知の方、いまさら馬鹿みたいとお思いのお方は大いに笑って下さって結構である。
  SBMについてもう少し触れてみたい。SBMは昨年からしばしば総務省の行政指導を受けている。曰く、◎基地局の無線設備のメーカーを変更する際に当局の許可が出る前に電波を発信した。◎2009年4月19日に、1576万人が影響を受けた携帯電話の規模としては過去最大の通信障害を起こしている。この他にも2008年4月〜5月には1か月間に3件の重大な通信障害を発生させたとして行政指導を受けたほか、同年10月(鹿児島県)、今年1月(徳島県)、2月(北海道)と立て続けに障害を起こしている。嘘か本当か分からないが、昨年鳴り物入りで宣伝されたアイフォーンもすっかり熱がさめ、店頭に在庫が積み上げられていると新聞には出ている。あのような方式は日本人には合わないと発売前から言われてはいたが、結局目標の100万台の半分にも達しなかったようである。SBMは、ドコモやauに対抗してあせっているのじゃないかとも思える。しかし、NTTやKDDIのように、日本を代表する伝統と技術力を持つ老舗事業者に対し、競争という荒野から誕生した新参事業者はあせってはいけない。
"奇手奇策を弄してNTTに挑戦するのではなく
(週間ダヤモンドの言)"、サービスの中身を充実させることが必要ではないだろうか。それが結局は良きライバルになる道だと思うのだが。
  週間ダイヤモンドはこの接続料引き下げ問題に関して、『KDDI幹部は、「固定電話の世界はNTTの独占だが、携帯電話の世界は競争なので規制は必要ない」 と言っており、ドコモとSBMとの争いには加わらない模様』 と報じている。さて、この問題は今後はどう推移し、KDDIの経営にどう影響していくのだろうか、そして、ドコモとSBMのバトルはどうなっていくのか、少しだけ興味がある。
(2009.5記 写真:高幡不動境内の紫陽花)