四 季 雑 感 (8)
落葉たちのつぶやき
樫村 慶一

  もう7年も前になる。2002年の日韓共同主催のサッカー、コパ・ムンディアル(ワールドカップ)が行われたとき、組織委員会本部にボランティアとして勤務した。場所は横浜のパシフィコ・ヨコハマである。前後約3か月、千葉から交通費自分持ちで片道2時間半かけて、よくぞ通ったものである。作業内容は決して”楽しかった”などと言えるものではなかったが、自分で応募したボランティアなんだから文句は言えない。その中で唯一の収穫は、同じような年齢の元サラリーマンの賢人達と知り合ったことで、この繋がりが「コパの会」と称して今でも続いている。 年に春秋の2回ほど会うのだが、先日も横浜駅に隣接するシュウマイの崎陽軒本店のレストランで会った。構成するのは、三井物産、JAL、東京海上火災保険とKDDの4人のOBである。それぞれが全く違った社会を歩いて来た人達の話しは興味深い。70歳代ばかりの年寄りの共通の話題は、どうしても病気の話しになる。心臓狭心症でニトロを常時持参しているとか、手術が嫌で前立腺癌と格闘中だとか、糖尿の予備軍で食事制限がやっかいだとか、肺が弱いとか、それぞれが何かしら疾患を持っている。それらの経験を多少誇張したり、また教訓的に得々と話す。前立腺癌の治療方法には手術をするのと、投薬と放射線照射の併用の2通りがあり、彼は前者を選んだと言う。しかしこの方法は一生続けないといけないらしく苦労である。
  病気の話しが一段落するとJALの企業年金の話しになった。新聞にでていたように厚生年金と合計すると結構な額になる人もいるらしい。それにしても今更世間に懐具合を知られるのはいい気持ちではないだろうし、減額の話しは不安であろう。。確定給付企業年金は「労使自治」が原則と新聞に出ていた。今週(11/16週)発売の週刊ダイヤモンドにも詳しく出ているが、企業年金に対する法的保護がいかに厚いかがよく分かる。

  話しは変わるが、いまやKDDIの固定通信事業は赤字に転落し、相変わらず主役は携帯であるが、9月には純増数が漸く停滞を脱出して、ドコモ、イーモバイルを抜いて2位に返り咲いた。(もっとも10月には再び最下位になってしまったが)。人口も増えないし携帯市場ももう飽和状態に達したようで、本当の純増はそうそう期待できない環境になってきたようである。そこで、ソフトバンクやドコモは”乗り換え”キャンペーンと言う新手を使いだした。2006年10月に開始された「番号持ち運び制」と理屈は同じだが、すでにほぼ固まっているそれぞれの顧客を、基本料を一定期間無料にすると言う特典で引き入れるやり方だ。しかし、自由競争とは言えこれは下手をすると泥試合になる恐れがある。こういうときこそ、米国のFCCのような強力な規制機関ができて、しっかりとした管理をして欲しいものである。日本形FCCを検討している総務省に期待すること大である。この携帯電話に欠かせないのが電池であり、その原料になるリチウムを巡る世界的な争奪戦が、南米大陸コーノ・スール(cono sur:南の円錐=南米大陸南部の3角地域のことを言う)で始まった。ウジュニ湖(ボリビア)
  アルゼンチンのパンパは2メートルも掘るとしょっぱい土や水が出てくる。それほど南米南部の地中には塩分が多い。この塩分がリチウム塩を溶かして塩湖の底に流れ込むのだ。その中でも、「チリのアタカマ塩湖」、「アルゼンチンのリンコン塩湖」、「ボリビアのウジュニ(uyuni=ウユニとも言う)塩湖」と言った広い湖の下には世界の80%のリチウムが眠っていると言われている。この中の一つウジュニ湖はラ・パスから車で10時間以上かかる。途中まで行ったことがあるが、舗装のない硬い石ころだらけの国道を走ると車は跳ねるように飛び上がる。25年も前だったが、今でも余り変わらないようである。
  日本商社や大使館がモラーレス大統領とのコネを元に有利に開発を進めようとしているが、競争相手が多い事業だ、最後まで油断はできない。30年ほど前に米国のジョージ・ソロスが、将来の食糧危機を見越してアルゼンチンの茫漠たるパンパを買い込んだという話しを聞いた頃、現地の日本人移民の間で、日本政府も移民を介して広大な土地を買っておいてはどうだ、という話しが出たのに見向きもしなかったということがあった。南米には韓国や中国の移民達が先輩の日本人移民を追い越そうとして猛烈な流入が起こっており、すでに日本人より多くなっているかも知れない。リチウム争奪戦も心細い結果にならないように頑張って欲しいものである。  

   秋も深まり銀杏も色付いてきた。新型インフルが流行していると言われるのに東京の繁華街には意外とマスク人間が少ない。私の掛かりつけの医者は 「70〜80代の高齢者は殆ど罹らない。罹患者の数を多く言って国民の関心を高めないと注射を受けない人が増える、そうすると従来型ワクチンの生産を制限してまでも製造した新型予防ワクチンが余ってしまい、厚労省の責任問題になるのを恐れ実際よりも多く発表しているのだ、いわばマッチ・ポンプです」と言っている。でも油断は大敵だ。私も年が変わるといよいよ傘壽の大台である。年末までの残りの日々は卓上カレンダーのデザイン選定・作成、年賀状デザイン選定・作成・宛名書きなどをしなくてはならないし、行きたい処、見たいものも残っている。風邪など引いていられない。 折角政権が変わったんだから来年こそは本当に ”良い年になるように” と祈りながら年末を迎えたいと思う。
 
      (2009.11記: 写真:ウジュニ湖(ボリビア) 出典:清水武男撮影「空撮南米大陸(株)クレオ1995.5」)