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会員 京極雅夫さんからの寄稿:

世界で活躍する日本人海運マン

 
■はじめに
日本は資源小国・海上輸送依存大国であり、輸入する基礎資源の海上輸送は国民生活そのものを支えている。1985年のプラザ合意を契機とする大幅かつ急激 な円高により、優秀な日本人船員が運航していた日本外航商船隊がコスト競争力を完全に喪失した。このため、日本外航海運業界は日本人船員の大量解雇を断行 し、人件費の安い外国人船員へのシフトが行われた。現在、約2600隻の日本商船隊の運航要員(船舶職員)の95%以上を海外の人材に依存している。この ため、質の高い外国人運航要員を確保することは日本にとって死活問題である。日本商船隊への優秀な運航要員を供給できる国の一つがトルコであり、また、同 国が盟主となっている黒海地域諸国である。世界の先進国の海運業界でも同様に輸送コスト削減のため自国以外の運航要員を確保する命題を背負っている。
海運業界のこのような危機的環境を背景に、国際海運および国際物流分野の将来を担う新しい人材育成システムの実現に取り組み、世界で活躍する海運マン・山 本 恒 君について紹介したい。彼は小生とは、小学校高学年時代まで遡る古い友人である 。
 
日本人海運マン - I 日本人海運マン - II
写真1 執務室にて、窓際の額はトルコ建国の父ケマル・アタチュルク
写真 2 トルコ政府代表団の一員(右端)として@マニラの会合
■山本 恒君のキャリア
この海運マンは、大学では体育会系部活のキャプテンとして活躍。大手海運会社に就職し、米国支店、英国現地法人勤務を含め数十年間に亘り船員分野を含む国 際外航海運業に携わった。以前ケーブルシップKDD丸の運航を担当した部門に在籍されていた頃、同船の運航についていろいろ助言を頂いた。
 
■海運マン・山本 恒君の世界での活躍
日本外航商船隊の危機的状況を身にしみて体験した彼は、日本で、いや、全世界で必要とされている船舶運航要員育成のために身を投じることに踏み切った。海 運会社を早期退職して、トルコへわたり、1997年より海事学部を擁するトルコ最高の工科大学である国立イスタンブール工科大学に勤務、海事学部専任講師 としてトルコ人船員の育成に携わった。この間、世界の4年制商船大学を連携・組織化するため「国際海事大学連合(International Association of Maritime Universities, IAMU)*」の創設に携わり、1999年に事務局長に就任、2004年に事務局の東京移転を機に帰国し、フルタイムの事務局長となった。
 
   *注:24ヶ国53の大学が加盟している。これは全世界の商船大学校の95%にあたる。
 
その後、トルコ海事教育体制の高度化への協力要請を受け、昨年、改めて古巣のイスタンブール工科大学に海事学部国際部長として復帰、本年8月学長補佐 (Advisor to the President)に任命された。今年5月には同学学長と共に日本を訪問し、トルコにゆかりの深い三笠宮寛仁親王殿下と面談するとともに川端文科大臣 (当時)、東大、京大、慶応、東工大などの最高首脳と意見交換し、日本・トルコ両国間の最先端技術交流についての基盤整備を図った。
また、本年6月にはマニラで開催された国際海事機関(IMO, International Maritime Organization, London)国際条約採択会議に合わせて国際海事社会の21世紀の人材育成にむけて、彼が推進した画期的な世界規模の「船員訓練プロジェクト (Global On-Board Training Center Project)」の発足に大きな役割を果した。彼の名は関係国署名の覚書(MOU)に明記され、本プロジェクトの初代事務総長に任命された。この快挙 は、日本人として極めて誉れ高いことである。
山本君、おめでとう!
 
■海運業界の命運と課題
彼は、海運マンとしての経験を通して、日本海運業界の危機を訴えている。
同氏曰く、
自分は、世界的な船員不足である現在の危機的環境を踏まえて、トルコ国立大学であるイスタンブール工科大学を拠点として、大学等の高等教育による海事人材 育成や技術移転について努力している。グローバル化が最も進んでいる国際海運システムの高度化の下で、国際海運及び国際物流分野の将来を担う新しい人材像 を提案するとともに、その人材育成システムの実現するものとして関係政府、関連組織、団体、業界や世界の諸大学との連携体制構築に邁進中である。
この活動を進めるにあたって念頭にあるのが「技術革新」であり、そのキーワードはKDDIが得意なICT(Information and Communication Technology、情報通信技術)をはじめ、環境、セキュリティ、人工衛星、ナノテク、クラウドコンピューティング、そして、高等教育分野でのマル チ・ディサプリン、「文理融合」である。
 
■おわりに
本文を集約、協議する上で、彼と小生が感じたことは、以下のとおりである。
調査研究と世界的な人材育成は、つまるところ人と人とのコミュニケーションでしょう。その中核をなすのは、かつてのKDDの主たる生業であった国際通信 ではありませんか。