Sugar & Salt Corner
No.12   2004年3月4日
佐藤 敏雄 

"Not Invented Here" 症候群

昨年10月、IEEEがそのフェロー・メンバーに対し、2004年の技術動向についてアンケートを行いました。 回答は約1000名の方から寄せられましたが、その30%は電気通信分野、18%がコンピュータ、15% がエネルギー関連分野の方々でした。また50%の方は教育に携わっており、22%が産業界でしたが、 特に際立っていたのは、28%の方が新規ビジネスの起業家だったという点です。年齢は、50歳以下が 19%、50から60歳が43%、60歳以上が38%でした。フェローという資格の方々ですから年配 の方が多いのですが、なるほどと頷けるところが多い。年寄りの繰言と思って見て頂きましょうか。

(1)「各業界で景気はよくなるだろうか」との質問に対し、半数の人は2004年には改善すると述べ、 10年後にはもっとよくなると60%の人が答えています。

次に、
(2)「10年以内にどの技術分野で社会的に大きなインパクトのあることが起こるか」との質問に対しては 次の4部門が挙げられました。数字は挙げた人の数の全体に対する割合です。

  • 70% 生物分子技術
  • 58% ナノ・テクノロジー
  • 44% 超コンピューティング
  • 39% ロボット技術
バイオの分野ではしばらくは米国の優位性が続くであろうこと、ナノテクについては、急進展するにはなお20年は 要するだろうことが指摘されています。多くの人が、これらは単独ではなく相乗的に作用して発展していく だろうと述べています。

次に、
(3)「新技術の開発において、既成の大会社は新興会社に負けると思うか」 という質問がなされました 。結果は非常に興味あるものでした。図をご覧下さい。
回答には「どちらとも言えない」が23%ありましたが、「YES(つまり負ける)」が51%、「NO」が26%で 、その理由は以下の通りでした。
YES, 大会社は新興会社と比べると:

  • 82% 機敏さが足りない
  • 76% 官僚主義のため価値のあるアイデアが埋没してしまう
  • 68% 現在の仕事で忙しい
  • 51% 会社の文化が新規開発を奨励したがらない
  • 48% "Not Invented Here" 症候群に罹っている
  • (これはNIH病と呼ばれ、某社のように自社開発品以外は使わないことを指します)
統計:大会社は新技術で勝てるか?
NO, 大会社は新興会社よりも:
  • 75% 金もあり懐が広い
  • 71% 市場へのかかわりが大きい
  • 65% 多く研究が行われている
  • 50% 他企業との提携が多い

大会社は、資金も豊富で多くの小企業に研究開発をさせてその分野のリーダーになり、やがてその技術を市場に出し 果ては買収したりできるのです。
回答者の多くは、発明家であり、経営者・創業者でありかつ教育者でもありますからこの問題には大きな関心を 持っています。
(4)「大企業は競合相手に追い越される危険性があるか」という 質問に関し、3分の2以上の人がLucentと Sun Microsystemsは追い越されると述べ、Microsoftがその次だと述べています。
技術は進歩します。それに従って企業も変わらなければなりません。新技術を評価するためには、業界の専門家 の意見をよく聞き、文献を確認することなどが大切です。しかし技術を表に出しては駄目で、消費者のニーズに応え、 価値が上がれば技術は市場に受け入れられるのです。また過剰な投資を避けるため、市場の大きさの評価も 忘れてはいけません。

(5)「2014年には、どの国が技術的研究開発をリードするだろうか」との問いに対しては、60%の人が米国 と回答しています。その理由としては、リスクを許容し新規開発を推奨する米国の文化的、法律的風土が挙げられ 、また優れた大学や国立研究所、有力企業、政府機関が沢山あって研究開発が推奨されているという、総合的な インフラがあることが挙げられています。次に来るのは遥か離れて18%の中国で、EUはただの6%でしかなく、 日本は顔も出していません。

ただし米国が勝ち続けるための条件として、今後とも、自由な交流ができ外部世界に閉ざされないオープンな 社会であり続けること、外国人に魅力ある環境を作り、彼等を歓迎し続けることが挙げられています。わが国は どうでしょうか? 中国が15-20年内には顔を出すと言った方もおりましたが、グローバルな技術開発村が誕生する のではないかと述べた人もおりました。
教育の必要性も指摘されています。多くの方が、専門家よりも基礎技術を究めた、広い視野を持った技術者が必要 だと述べています。 更に、技術家たちの予想は時に外れるもので、とんでもない、予想外の新しい発明が将来にとって最も大切なもの だとの意見が印象的でした。

日本企業が活性化するために何が必要かということについて、今更ながら、思い当たることの多い 調査結果でありました。

以 上       
  掲載済みS&S一覧次号  雨どいが君が代を歌う?!