Sugar & Salt Corner
No. 44
2010年11月10日
佐藤 敏雄

イカロス宇宙へ

イカロス! ギリシャの昔、父の忠告を忘れて余りにも高く、太陽の近くまで飛んだため、翼をつけた蝋が熱で溶けて墜落した青年。今、日本の技術の成果が、遥か太陽系の果てに向け飛んでいる。 太陽風に乗って、燃料無しで宇宙の果てまで行くという、このエコなる飛翔体。
その名は、
  「イカロス」。(IKAROS = Interplanetary Kite-craft Accelerated by Radiation Of the Sun)
イカロスの部分展示
写真1 イカロスの部分展示
 
その正体は一辺14mの正方形をした厚さ(薄さ)7.5ミクロンの薄膜である。膜で受けた太陽光の圧力を推力とする帆船、いわば「宇宙ヨット」である。
打上げ時
写真2 打上げ時
 
イカロスは今年5月21日、金星探査機「あかつき」と一緒に打ち上げられた。6月21日にはソーラーセイル(太陽帆)の展開に成功し、7月には太陽光による光子加速の実証に成功した。ハヤブサ帰還に次ぐ快挙である。そのハヤブサの成功を記念して、宇宙研相模原キャンパスが公開され、巨大なひらひらしたイカロスの一部(写真1)が展示されていた。 
1時展開
写真3 1次展開
本体は、打上げ時には折り畳んで写真2のような円筒(直径1.6m、高さ80cm)内に収められている。これを軌道上で高速スピンさせ、畳んで巻き込んであった膜の4隅に取り付けてある500gの錘の遠心力で、先ず写真3のような「X字型」に1次展開する。次いで、中央部の留め金を外し、ゆっくりと回転させて写真4のような平面に2次展開する。 四辺形の薄膜の外周には、太陽電池が、また、中央部には通電することにより膜の反射率が変化する液晶デバイスが貼り付けてある。どの方向のデバイスに通電するかにより、太陽光圧力のかかる方向を調節し、帆船の姿勢を制御するというから凄い。
2時展開
写真4 2次展開されたイカロス
中央部の青い帯は薄膜太陽電池
周辺部の金色の帯は液晶デバイス
 
何だこの写真は!といぶかる方も多かろう。実は公開当日、イカロスの模型の型紙をゲットし、苦心の挙句完成したのが上の一連の写真なのだ。写真5がイカロスから放出されたカメラが実際に撮影した、飛行中のイカロスの姿。
宇宙の姿
写真5 宇宙を飛行するイカロス
 
その本体は東大の三浦公亮さんの発明による「三浦折り」により折り畳まれたもので、写真3のX型の留め金を外せば、一瞬にして広げることができる。
何重にも折り畳んだ紙を広げるのは容易でないことはお分かりだろう。
日本の伝統、折り紙の技術である。この「三浦折り」を体験できるのが、これまた現場で配布されていた写真6の型紙。山折り、谷折りと、丁寧に折り目がつけられている。
三浦折り
写真6 三浦折りの型紙
 
折り畳み時
写真7 折り畳み時
斜めの折り目の角度は、11.5度だとか。写真7のように小さく畳まれた一端を引っ張ると一発で写真6のように展開できる。
 
古くて新しい伝統の日本技術を積んで、今、イカロスは宇宙の彼方へ。
 

以上 


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