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第V部

第6章 吟味と総括

(『総括』のはじめに)

以前、ある雑誌の記事で、こんな言葉を読んだことがある。"旅は行く前が一番楽しいのです。次に楽しいのは帰ってきてからの思い出です。行っている間は実はあまり楽しくはないのです"。記事はそのあと『あまり楽しくない旅行中』を如何に楽しく過ごすか、の心得を説くのであるが、私はこの冒頭の言葉に着目し、これを敷衍して次のように考える。
  ・旅の真髄は計画 plan にある。「楽しみ」はここに凝結される。
  ・旅の反芻 see にはそれなりの楽しみがある。しかし、
  ・旅そのもの do は難行苦行の連続である。
  ・旅には plan-do-see のサイクルがある。ただ漫然と旅をするのではなく、旅を plan-do-see の
   完結する輪として捉えるとき、それは知的行為としての意味を持ちはじめる。そのとき、はじめて
   "苦行"はより高次元の悦楽へ昇華する。と。
限りなく愚行に近い奇行、と自ら標榜したこの旅を着想し、企画することは、知的な遊戯として高度なものに属し、それなりに楽しみも大きかった。
しかし、それを実行するとなると話は別で、ここから『知』が『痴』に変わってくる。しかも、実行中は錯誤と逡巡の連続であって疲労とストレスは積もり、そのうえ、延べ20キロにも及ぶ徒歩行を強いられるなど、それは文字通り"難行苦行"であった。しかし、現地で情報を取得し、現地で迷いながら判断実行する、という出たとこ勝負のこの旅は plan と do が混淆しているから、結構、楽しみもあった。

行動の諸元をまとめると次のようになる。
  □所要日数:  3日。行動実時間の合計は3日間で延べ約31時間。
  □乗換え回数:20回。うち4回は同一路線内の乗継ぎ。その内訳は錯誤2、自己都合途中下車1、
         ほか1。
  □利用路線数:17路線。内訳  大手私鉄3、 地方中小私鉄2、 地方ローカルバス12。
  □要徒歩区間:事前計画 1箇所  約1キロ(清水市内)。現地判断 3箇所  延べ約17キロ。
         ほかにルートの模索、試行錯誤などによる歩行距離は延べ約 2.5キロに及んだ。
  □所要交通費:計15,010円。内訳 運賃13,730円、特急料 1,280円。
  □ルート:  鉄道区間は事前に計画。他はすべて、現地での状況判断に依る。結果的に、ルートは
        (徒歩区間を含めて)概ね旧東海道をトレースする形となった。
斯くして旅程は消化され、終わった。
だが、知的遊戯としての旅は終わっていない。旅を完結するためには、これを反芻し、評価し、総括することが不可欠である。
とくに本件の場合、『総括』とは、今次実行の経験をベースとし、これに調査検討を加えてプランの瑕疵、欠点を除去し、よりスマートな形に仕上げることである。具体的には、実行された行程の整理、確認、と吟味。そして、よりベターなルートや手段を求めてプランを再構築する。すなわち『机上での旅行のやり直し』を以て、はじめてこの旅行の終結とすべきなのである。そのためには更なるサーベイ、−−交通機関への問い合わせや、現地の実態調査−−が必要となってくる。

大阪である種の達成感に浸った私は、安宿の一夜が明けるのを待ちかねてトンボ返りの帰途に就いた。帰途は一転してJRを用い、そして途中、何度か途中下車を重ねた。バス路線等の再調査のためである。調査はその日丸々1日を費やした。更に私はその後、東海道方面に別途の所用のある毎に、なにがしかの時間を割いてサーベイを続けたのであった。
次回以降、その検討の過程と成果、すなわち本計画の吟味と総括を述べる。
つづく


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