Sugar & Salt Corner
No.15-1    2004年8月10日
佐藤 敏雄 

第3世代携帯電話システムの現状 (その1)

最近に至り内外で「3G」に関する動きが活発となってきました。最新の情報をまとめる機会を得ましたので その要約をご覧に入れましょう。

1. 機能仕様
ITUで第3世代携帯電話システム(3G)の国際標準化が進められてきました。その目指すところは、 世界共通の技術標準により、高速移動体に対して144kbps、歩行者の速度に対して384kbpsを、 静止者に対して2Mbpsのマルチメディアサービスを提供するものです。使用する周波数帯は2000MHz帯、 2000年頃のサービス開始が目標ということでIMT-2000の名前が誕生しました。それ以前にはFPLMTS (Future Public Land Mobile Telecommunication System)というややこしい名前で、欧米の友人など 「フプルンツ??何て呼びにくい名前なんだ」とぼやいていた代物でした。

2. 標準化の経緯
(1) 統合への努力
ヨーロッパでは全ての移動体通信を統合するUMTS (Universal Mobile Telecommunication System)の開発が 進んでいましたが、その候補の一つがW-CDMA(Wideband CDMA)でした。デジタル携帯電話PDCの国際的普及に 失敗したNTTドコモは、ヨーロッパ勢と組み、陸上ネットワークの面で妥協することにより、自社開発の W-CDMA方式をITUの標準に組み入れることに成功したのです。
一方、既にcdmaOneを導入していた米国の通信事業者とIDO・DDI連合(現KDDI)は、極力既存ネットワークを 活用することで財務的負担を軽くできるとして、その拡張版であるCDMA2000方式の採用を強く主張しました。
両方式の細かい違いは多いのですが、基本的な相違は同期方式とチップレート(拡散速度)です。前者については、 基地局間の同期にGPS衛星を使うCDMA2000方式と、その特許を避けようとするW-CDMA方式の対立です。 またチップレートについては、ISDNの64kbpsを基本とするW-CDMAと、9.6kbpsの倍数になっている CDMA2000の3.6864Mcpsの違いです(試みに検算してみてください)。その差は僅か5%程度で機能上 大きな差とは言えないのですが、始めは4.096Mcpsを主張し3.84Mcpsまで妥協したヨーロッパグループ には更なる妥協の余地はなかったようです。
この両者の規格を統一(ハーモナイズ)することを目的としてハーモナイゼーション会合が東京を含む 世界各地を廻って何回も開催されました。S&S子もその大半に参加しましたが、遂に妥協を見ることができませんでした。 ITUの場でも結局この対立は解消せず、表1のようにこの両者を含む5方式をIMT-2000と認めることとなり、 ITUの権威は大きく揺らいでしまいました。

表1 IMT-2000 標準5方式
正式名称 IMT-DS IMT-MC IMT-TC IMT-SC IMT-FT
使用技術 W-CDMA
(UTRAN FDD)
cdma2000 TD-SCDMA
(UTRAN TDD)
UWC-136
(EDGE)
DECT
特徴 Direct Spread Multi-Carrier Time Codee Single Carrier Frequency Time
マルチプルアクセス CDMA CDMA CDMA/TDMA TDMA TDMA/FDM
周波数ペア FDD FDD TDD FDD TDD

(2) 3GPP
ITUの意思決定の遅さに業を煮やした実務派達が立ち上げたのが3GPP (3rd Generation Partnership Project)です。 1998年12月W-CDMAグループがこれを立ち上げると、CDMA2000グループも翌1999年1月に3GPP2を立ち上げました。 意図するところは早期標準化です。2番目にできたものだけに「2」が付いているのは、「xxx第2高校」はある けれど同じ町の昔からの高校には「1」が付いてないのとそっくりですね。
 わが国ではこの両者とも標準化することとなり、民間標準化機関のARIB(電波産業会)とTTC(電信電話委員会) がそれぞれ無線関係とコアネットワーク関係を担当して作業に当たっています。

  3.各3Gシステムとその導入状況
2004年に入って、3Gの導入はようやく活発化してきました。2004年3月末、世界でcdma2000-1Xが1億400万 (内680万がEV-DO)、W-CDMAが430万の利用があります。以下、各技術の現状について説明しましょう。
(1)W-CDMA
NTTドコモは2001年10月から世界に先駆けてFOMAの愛称でW-CDMAのサービスを開始しました。端末が高価で バッテリーの持ち時間が短いこともあり、2002年末の利用者数は15万人に過ぎませんでしたが、ドコモの 戦略転換もあり2004年7月半ばには500万の大台を突破しました。
Jフォンは2002年12月にW-CDMAを開始しましたが、二度も延期した後でのサービス開始です。 Vodafoneと名称を変更してからの同社の業績は低迷していますが、3Gも2004年7月現在、20万人の加入 に留まっています。

(2) CDMA2000-1x
W-CDMAとCDMA2000nx CDMA2000-1xでは144kbpsの伝送が可能で、音声通信なら従来のcdmaOneの2倍の利用者を収容できるもので、 7月末現在、世界中で35の国と地域で68オペレータがサービスをしています。図1に「1x」と呼ばれる由来と W-CDMAとの違いを示します。CDMA2000-1xは米国の中小事業者が5MHzもの帯域を確保できないことを配慮した もので、cdmaOneと同じ1.25MHzの帯域幅でよく、従来のcdmaOneシステムと同居が可能です。これを3波 並べたものが「3x」ですが、未だ完成したものはありません。
KDDIでは、既存の800MHz帯のcdmaOneネットワークを改修して2002年4月からCDMA2000-1xを導入しました。 利用者からの反応は極めて良好で、今年7月には利用者が1500万人を突破した事はニュースでご存知のことでしょう。

KDDIは更に昨年11月からCDMA2000-1x EV-DOをWINという愛称で定額方式のサービスを開始しました。EV-DOは データに特化したシステムで、平均600kbps、最大2.4Mbpsの高速データ通信を実現するものです。
(3)TD-CDMA
 最近、IMT-2000の1標準であるTD-CDMAへの関心が高まってきました。この方式はPHSと同じように、送信と受信 を同一の 周波数帯域で行うTDD方式のもので、NTTグループやソフトバンク、イーアクセス等が実験を開始しています。しかし 今更全国展開をする可能性への疑問や、総務省の周波数割当をめぐって紆余曲折がありそうです。

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